サンダーのマネージャー ウィルソン・テイラーと選手たちの絆について、2016年のお話。
(テイラーの正式役職は“equipment manager”、直訳すると「用具管理者」とか?日本語にはないからここではマネージャーと表現する)
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オクラホマシティ・サンダー プロポーズ大作戦
オクラホマシティ・サンダーのストーリーが始まろうかというとき、ウィルソン・テイラーはNBAで働きたいと夢見る少年だった。
そしてそのストーリーは2007年の夏、2,000マイル以上離れたシアトルで始まった。
ラッセル・ウェストブルックがドラフトされるよりも、サム・プレスティが雇われるよりも、チームがアメリカの真ん中に位置する町にやってきて愛すべき存在になるよりも前の話だ。新しい環境に移りたいと思っていた23歳オクラホマ出身のテイラーはオクラホマステイト大学で院生のときインターンにいく機会を手にした。それは後にスカウティングビデオや用具などすべてに携わる仕事に繋がる足がかりとなった。

9年間ケビン・デュラントと一緒に絶頂期も低迷期もすべて共にしてきた、テイラーは彼らがどれだけ月曜の夜勝ちたいかを誰よりも分かっている。前年チャンピオンのゴールデンステイト・ウォーリアーズがGAME7で立ちはだかっていた。
テイラー「何が何でもやらないといけない。運命のように感じるね。僕たちは様々なことを経験してきたし、このときのためにやってきた。KDのため、ラスのため、ニックのため、彼らのために優勝したい。彼らにどんな意味があるかも、彼らがどれだけ頑張ってきたかも知っている。」
ここまでのサンダーは勝利も悲劇も経験してきた。急激な成長で、2012年ケビン・デュラントとラッセル・ウェストブルックを中心に一気にファイナルまで駆け上がり、そこでレブロン・ジェームス率いるマイアミ・ヒートに破れた。その時は彼らがこれから毎年ファイナルに進むように思えたが度重なるケガがすべてを変えてしまった。
2013年プレーオフ 1st.ラウンドでのウェストブルックの半月板のケガ、2014年サージ・イバカのふくらはぎのケガ(このせいでイバカはWCFのGAME1,2を欠場しスパーズに2連敗した)、そして2015年はケビン・デュラントの足のケガでプレーオフ不出場となった。他にもたくさん、本当にたくさんケガがあった。
髭を生やした少年のような顔をしたテイラーはタイムアウト中に選手たちとハイファイブする光景がよく中継されている。彼はできればケガの瞬間を忘れたかった。この4年間すべてのホームゲーム、アウェイゲームに帯同して一列目にいたテイラーにとってケガの瞬間を見ることは避けられなかったのだ。
「2014年にはウェストブルックの手の骨折、2015年にはウェストブルックの頬骨の骨折もあった」テイラーはサンダーの苦難を付け足す。「すべてのことを一緒にやってきて僕たちは仲がいいから、いつでもケガの瞬間は人生のドン底だ。でも彼らの取り組む姿勢も組織のことも信じているからみんな戻ってくることは分かってる。」
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マネージャーと選手の間に友情が芽生えることはめずらしいことではない。決められた服装で信頼と習慣を築きながら、選手が快適に過ごせるように何でもやるのが仕事の本質だ。でも彼らの関係はそれ以上だ。
テイラーとデュラントは同じタイミングでサンダーにやってきた。テキサス大学出身の細い少年はレイ・アレンのあとを次ぐスーパーソニックスの未来のスターだった。しかし、20勝62敗のシーズンで彼が一人では勝てないことが明らかだった。

コリソンは組織の象徴のような選手で、4年目にしてベテランの役割を引き受けていた。ウェストブルックは2008年ドラフト4位でUCLAからやってきたドライブが武器の選手で、次のレベルに進むためチームからの指導を受けていた。テイラーはここまでずっと彼ら全員と一緒に成長してきた。
すべてのことを一緒にやってきたわけではないが、コート上でもコート外でも関係を築き上げてきた。その中でもテイラーの頭に浮かぶのは今年の3月14日のことだ。テイラーが長く付き合っていた恋人フェリシア・ハダックへプロポーズする際、サンダーの仲間たちが一役買ってくれた。
彼女はプロポーズされることを分かっていたから、テイラーには工夫が必要だった。3月5日の夜、ミルウォーキーのステーキハウスでテイラーとサンダーの選手たちは元サンダーでバックスのスティーブ・ノバックと合流した。そこでアイデアが広がった。
テイラー「6,7人がステーキハウスにいたと思う、ノバックが僕たちのために個室をとってくれたんだ。そこでKDと僕は考え込んでたんだ。彼は“もうすぐプロポーズするんだろ?何か考えてるの?ラスとニックには言ったの?”って、だから僕はスカベンジャーハントにしようかと考えていると伝えた。」
デュラントは乗った。
↓スカベンジャーハントについて↓
日本で言う宝探しゲームのようなもの?ここではテイラーの恋人フェリシアが出されていくヒントをもとに自身の思い出の場所を巡っていく。
テイラー「KDは“それやろうぜ”って感じだった、ニックとラスも同じだったよ。すぐに“みんなで一緒にやろう”ってなったんだ。」
プランはサンダーの遠征スケジュールなみに精巧につくられていた。それぞれに特別な意味がある6つの場所を設定し、ほぼすべてのサンダーの選手たちも来ることになった。フェリシアはテイラーと深夜にサンダーの練習施設で遊びのシューティングをしていたので選手たちと知り合いではあったが日常的に会っているわけではなかった。
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まずお昼にフェリシアは友人スタンシーとマッサージに行き、そこでその日のスケジュールを受け取る。すると1つ目のヒントを持ったリムジンドライバーがネイルに送ってくれる、そこで2つ目のヒントを持った母親と合流。次に母親と2人でテイラーとフェリシアが始めて出会ったレストラン“Saturn Grill”に行く、そこに3つ目のヒントがある。
サンダーの練習施設に移ると4つ目のヒントを持ったラッセル・ウェストブルックが待っている。ミッションはフリースローを2本決めること。(簡単なように聞こえるかもしれないが、フェリシアはデアンドレ・ジョーダンにもフリースローコンテストで勝てないとジョークが言われていた。)続いて“Empire Slice House”に行く、コリソン主催のハロウィンパーティーで2人が初めてキスをした場所だった。そこにコリソンが次のヒント役として待ち構えているからピッタリだ。

コリソン「バーに1人で座って彼女の到着を待っていた。そしたらテイラーから予定よりも早く進んでるって連絡があった。だから30分くらい時間稼ぎをしないといけなかったんだ。彼女と座って話しながら何杯かビールを飲んだよ。彼女のことはよく知っていたけど、彼女は“これは何なの?”みたいな感じだったから自分は“いいから喋ろうぜ”って。」
グランドフィナーレは“Gaylord Pickens Oklahoma Hall of Fame museum”で行われた、そこではケビン・デュラントが建物の端で大事なものを持って待っていた。
テイラー「ポジションが大事だった、彼女に後ろに停めてある車を見られたくなかったからね。」
フェリシアがやってくるとキャップを反対向きにかぶってサングラスをしたデュラントが出てきて指輪を渡した、そこで12人のサンダーの選手たちが出てきてお祝いをする、計画通りだった。ありがたいことに彼女の答えは“Yes”だった。
テイラー「彼女は完全にやられてたよ、完全にね。」

月曜日の試合、テイラーはオラクルアリーナの熱狂の中でもいつもどおり仕事をこなすだろうし、もしサンダーが負けてもこの関係は変わらない。でも彼は何年も前にNBAに携わる仕事がしたかったのと同じくらいこのチャンスをものにしたいと思っている、それは自分のためではなく彼らのために。
テイラー「他のスーパースターのことはわからないけど、彼らは毎日朝一番に体育館に来る。本当に超一流だ。彼らのことは親友だと思っている、親友だから彼らためにできることは何でもしたい。そんな感じかな。彼ら3人(デュラント、ウェストブルック、コリソン)は親友で彼らの取り組みを見てきた。彼らはチャンピオンになるべき人物だと思うんだ。」

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まとめ
このウィルソン・テイラーの話はサンダーでサム・プレスティが築き上げてきた“Family Atmospher”「家族のような雰囲気」を象徴するエピソードだと思う。
ちなみにアンソニー・モローによるとこの年のプレーオフでテイラーはウォーリアーズのセットプレーを全部覚えていたそう。他のチームのマネージャーは一切知らないけど、それは普通コーチの仕事なのでは?
チームの洗濯などの雑務をこなしながら親友のためにマネージャー以上の仕事をする。こういう裏方がいるからサンダーは強いし、そういうカルチャーを築き上げてきたプレスティがいるからサンダーは魅力的なチームなんだと思う。
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プレスティが築き上げた“Family Atmospher”について