『ジェラミ・グラントがデトロイトを選んだ理由』
なぜジェラミ・グラントがこのオフシーズン、FAでデトロイトに行くことを決断したのか?それを理解するには彼には2つの全く異なる側面 ー選手としてのジェラミ・グラントとBlack manとしてのジェラミ・グラントー があるということを知らないといけない。

選手として高校時代からずっと他の選手のサポート役に徹してきたジェラミ・グラントはもっと大きな役割を欲し、NBA選手として目先の結果よりも自らの成長を選択した。グラントは優勝争いができて、きっちりとした役割があり居心地がいいデンバー・ナゲッツを去った。そしてデトロイトで今まで与えられなかった大きな役割を手にした。
2014年、グラントは76ersから2巡目で指名される。その後フィラデルフィアからオクラホマ、オクラホマからデンバーへとトレードされ、グラントは初めて自らの道を決める機会を手にした。
グラント「ファンの人たちが(優勝争いができる環境を捨てることを)理解するのは難しいと思う、でも選手からしたら難しい話じゃないんだ。ファンは選手と同じ視点、観点では見ないからね。」
さて、グラントがピストンズにやってきたもう一つの理由を理解するにはまずは26歳の Black man のことを理解しないといけない。彼の両親はいつも4人の子どもたちにいかにプライドを持つことが大事か、いかに世間が“自分たちの味方ではない”かを教えていた。
そんな彼はバスケットボールをしているとき以外は、Blackのリーダーやアメリカの人種差別の歴史について勉強してきた。
グラント「オレはバスケットボール選手である前にBlack man だ。」
だから、グラントが今から3年間過ごす街がアメリカで最もBlackの人口が多い都市であることは偶然ではない。だから、グラントがドゥエイン・ケーシーとトロイ・ウィバーの元でプレーするのも偶然ではない。(ドゥエイン・ケーシーはNBAで7人いるBlack HCの一人でトロイ・ウィーバーはNBAで10人いるBlack GMの一人、HCもGMもBlackなのは5チームのみ。)
選手としてのグラントはもっと多くのことを証明したかった。Black manとしてのグラントは彼と似た境遇で似た経験をしてきたリーダーのもとプレーしたかった。デトロイトにくるまではNBAでBlack HCのもとプレーしたことはなかった。(2016年から2019年までオクラホマシティーでトロイ・ウィーバーのもとプレーしていた経験はあるが。)
グラント「コート内外問わず、共感しあえることがある。全員とは言わないけど、多くのBlack manが苦しい経験をしてきたしこれからもすると思う。近くに自分と同じ境遇の人がいれば、絆が深まるし気持ちが楽になるんだ。
トロイと親しくなってトロイがどんな人物なのか、彼が何をやりたいかを知った。コーチケーシーに会って彼がどんな人物かが分かって、彼がトロイのやりたいことの根幹を担ってるってことを理解した。トロイが何を支持していてここからどう進んでいくかは分かってるよ。」
2020年、警察の手によってブリアナ・テイラーとジョージ・フロイドが殺害されたことにより、グラントや他のアスリートたちは人種差別に対する声をあげた。8月になると抗議は最高潮に達する、ミルウォーキーのケノーシャでジェイコブ・ブレイクが警官に殺害されるとミルウォーキー・バックスがオーランド・マジックとのプレーオフ1st.ラウンドGAME5をボイコットしたのだ。
NBAオーランドバブルにナゲッツの一員として参加していたグラントはバスケットに関する話題はすべて避けた、「ブリアナ・テイラーを殺した人物がまだ自由に歩いている」ことを世界に知ってもらうために。彼はすべての質問に対して声なき人物の声になろうとしていた。
グラントは両親と夢見ていた変革を成し遂げたかった。父親のハーヴィー(11年NBAでプレーしたベテラン選手)と母親のべバリーはいつも子どもたちに自身のことだけでなく、後世への影響も考えるように教えていた。
ハーヴィー「昔いろいろ教えてきたから、その結果かもしれないね。子どもたちにはいつも“自分の声を使うんだ。自分のしたことは自分だけでなく子や孫にまで影響する。”と言ってきた。
ジェラミやレブロン・ジェームス、カーメロ・アンソニー、クリス・ポール、そしてNBA、WNBA、NFL、MLBがやってきたことを称えたい。」
小さいときからグラントはマルコムXやフレデリック・ダグラスなどのアフリカ系アメリカ人について学んできた。読書家のグラントが好きな本はマルコムXの自伝だ。そこには黒人解放運動活動家の一生が細かく書かれていた。
グラントはマルコムXが歳を重ねるにつれて変化していったことに共感していた。考え方を変えながら、人生の困難を乗り越えていくということこそ今のグラントの生き方なのだ。
グラント「イスラム国家で活動しようがアメリカで活動しようが、死に際だろうが、自分が間違っていると思ったら彼はそれを変える。物事を変えて、周りとは違う方法で物事を動かして、たくさんの苦境を乗り越える能力に感動した。みんな何かしら逆境に立たされることはあるからね。どんな状況でも彼が自分自身に正直なところが好きだ。」
グラントが大人になり社会に出て世の中の差別を知るにつれ、父親は変化に気づき始めた。シラキュース大学でのプレーを終えNBAに備えているとジェラミはより Black people の歴史に興味を持つようになった、彼らはどこで生まれアメリカでどう進化してきたのか。ジェラミはただ読むだけでなく、世の中を変えることに興味を持つようになった。
その結果、NBAのバブルでもそうだったが、グラントは少しずつ注目を集めるようにしていた。本当の自分がどんな人物なのかを知ってもらうために。
ハーヴィー「私はジェラミにいつも“自分らしくいなさい”と教えていた。自分と母親は子どもたちにそれを刷り込んでいたよ。」
2012年、グラントはHour Generation Foundationを立ち上げた。目的は「情報、環境、サービスにより若い世代のポテンシャルを最大限活かし、全員に特別な才能があることを知ってもらうことで子どもたちの才能を発掘する」ことである。
その財団法人はグラントが高校時代過ごしたメリーランドにあり、地域の子どもたちのためにサンクスギビングやクリスマスなどのイベントを開催している。グラントは仕事のスケジュールがあえばイベントに参加しているし、彼がいないときも家族がサポートしている。
グラントはデトロイトまでその活動拠点を拡大しようとしているがCOVID-19の影響でまだ動けていない。それでも目標は組織の顔となりコミュニティで活躍することだ。数十年、ピストンズの本部とアリーナはミシガン州アーバンヒルズの郊外にあったがルーツであるデトロイトに帰ってきた。
グラント「色々企画してるところなんだ、完成したときは知らせるよ。」
グラントはピストンズ再建の手助けをするためだけに来たわけではない。自身と似た境遇で育ってきたリーダーのもとプレーするため、Blackの苦難と栄光により成り立った町とつながりを持つために来たのだ。
ピストンズの一員になることはバスケットボール選手としてのジェラミ・グラントの挑戦であり、デトロイトでプレーすることはもう一人のジェラミ・グラントのやりがいである。そしてそれはNBAキャリアが終わったあともずっと長きに渡って心に響くものになるだろう。
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おまけ:コメント集
DETに移籍しキャリアで始めてエースとしてプレーするジェラミは平均得点を倍増させた。
シーズン | 得点 | FG% | FGM-A | 3P% | 3PM-A | FT% | FTM-A |
2019-20 | 12.0 | .478 | 4.3-8.9 | .389 | 1.4-3.5 | .750 | 2.1-2.8 |
2020-21 | 23.4 | .433 | 7.7-17.8 | .363 | 2.5-6.8 | .889 | 5.6-6.3 |
そんなジェラミをNBAのHCたちが絶賛。
彼がオフェンスの中心を担っていると言いたいのだろうが、多くの場面で彼はユニークな方法でスコアしてくる、彼のためのプレーでないときにね。ジェラミのためのプレーでなくてもスタッツシートを埋める方法を見つけてスコアしてくるんだ。実際に見ないと分からないかもしれないけど、本当にすばらしい。
マイク・ブーデンホルツァー
今までロールプレイヤーだった選手がスター選手となりしかもその役割をこなすのは珍しい。彼はそれをやっている、スタッツもすばらしい。ものすごいことだ、みんな彼との対戦に備えて準備しないといけない。3番目、4番目の選手ではなく1番目の選手だからね。
ドック・リバース
彼の昨年のプレーを見たら、今年のプレーはまったく不思議ではないよ。デトロイトにとってはすばらしい補強だと思う。彼はリーグ有数の選手になろうと進化しているところだ。
フランク・ボーゲル
彼は安定して3Pを決め続けていて、ドリブルからの攻めはダイナミックだ。本当に自信を持ってプレーしていることが分かると思う。高さ、長さがあるからリムの周りでも簡単にプレーしてくるし、3番ポジションでプレーさせたら相手は大抵ミスマッチになる。すばらしい選手だ、バブルでも今日の試合でも分からされた。
クイン・スナイダー
ジェラミは自身がシューターであることを証明している。OKC時代、DEN時代から2,3年ほど続けて40%弱の確率で3Pを決めているからまぐれなんかじゃない。
彼は自身の実力を出し切るすばらしい機会を手にした、彼がデトロイトに来た理由でもあるよね。私は彼がものすごい努力をすることを知っている。あんな練習の虫がシュートに取り組んだから、今まさにみんなが目の当たりにしていることが起きたんだ。
ロイド・ピアース
ジェラミは大きな挑戦をするためにここに来た。私はジェラミが才能を最大限発揮できるような機会を与えるつもりだ。彼の更なる進化に期待しているよ。
トロイ・ウィーバーGM
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リンク
サンダー時代のジェラミの成長について