マイク・ムスカラ~漢・魂・愛~

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2019年夏、サンダーはチームの中心選手ラッセル・ウェストブルックとポール・ジョージの周りを固める選手を探していた。

前シーズン半ばまではウエスタンカンファレンスの上位争いをしていたサンダー。しかし、終盤にポール・ジョージが肩のケガで調子を落とすとチーム成績も下降線を辿り、結局プレーオフでも調子を取り戻すことはなく1回戦負けを喫した。

2019年2月ジャズ戦、PGのゲームウィナーで2OTの末に勝利を掴んだサンダーはこの時点でウエスト3位(38勝20敗)だった。

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チームの弱点を補うべくサンダーはその年のFAでマイク・ムスカラに狙いを定めていた。

208cmの身長で3Pを決めることができフロアを走ることができるムスカラにサンダーは魅力を感じていた、ムスカラならウェストブルックともジョージとも相性抜群なはずだった。

FA解禁するやいなやサンダーはムスカラに猛烈なラブコールを送る、なんとサム・プレスティGMはミネソタにあるムスカラの家に出向き面談をしたのだ。

FA解禁の数日前にエージェントから電話が来たんだ、サンダーがものすごく興味を示してるって。ドラフトのときにオクラホマでワークアウトをしていて練習施設も気に入っていたし、組織にもいい印象を持っていたし、NBAキャリアの中でサンダーのいい噂をたくさん聞いてた。

はじめエージェントが言うには、“FAが解禁されたら話したい”だったのが“会いたい”に変わって、次は“ミネソタで会いたい”に、その次には“自宅で会いたい”になったんだ。

 マイク・ムスカラ

このラブコールにムスカラは応える。

スモールマーケットの宿命とは言えFA選手に縁のない(球団史上最高額FA加入選手はパトリック・パターソンで3年$16.4M)サンダー、優勝を目指すプレスティはロールプレイヤーのムスカラに対してスター選手級の扱いをすることで本気を見せた。「そっちが来ないなら、こっちから行くぞ」と言わんばかりに自らの足を使い補強を推進したのだ。

さらにFAでアレック・バークスも加え堅実な補強をしたサンダー、あとはポール・ジョージが復調したらまた西の上位争いができる。そのはずだった。

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しかし、ムスカラとの契約が決まって1週間も経たない内に事態は急変した。

ポール・ジョージが突然サンダーにトレード要求をしたのだった。サンダーは即座にトレードに応じると本人の希望を聞いた上でウェストブルックもHOUへトレードする。わずか数日でサンダーが向かうべき道は“優勝”から“再建”へと変わってしまった。

一連の流れでサンダーはムスカラ、バークスに再度入団を検討し直す自由を与えた、優勝争い目的に入団を決めてくれた2人に対する敬意だった。もちろんこれはサンダーからの提案であって選手が残らないといけない義理は全くない、実際バークスはこれを受けウォーリアーズと契約を結び直した。

ただムスカラの決断は違った。

たとえ状況が変わっても、組織に対する印象があまりにも良くて頭から離れなかったんだ。ロスターや人事が変わったとしても、学べることがたくさんあると感じた。“なんとなく優勝したい”なんて気持ちでバスケットボールをプレーしたことはない、自分にとっては優勝よりもキャリアを通じて出会った人の方が大事だ。それがバスケットボールのいいところだと思うしね。

 マイク・ムスカラ

自宅まで足を運んだプレスティの漢気に対して、ムスカラは漢気で返した。

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2019-20シーズン、外角シュートを期待されサンダーにやってきたムスカラは出だしこそシュートが決まらず苦しんだ(開幕8試合を終えた時点で3P成功率5.3%、19本打った3Pは1本しか決まらなかった)が開幕9試合目のウォーリアーズ戦で3Pを3本沈めるとそこから徐々に本領を発揮。以降コロナの影響でシーズンが中断されるまでの34試合で成功率41.6%(42-102)とその期待に応え、好調なチームをベンチから支えた。

22チームがオーランドに召集されシーズンが再開されると、ムスカラはさらにギアをあげる。特に顕著だったのがヒート戦。

ウィザーズ戦では3Pを4本沈めるなど、バブル出場6試合で3P成功率47.8%(11-23)と絶好調だったムスカラ。

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サンダーとヒートの試合は両チームともシーズン残り2試合でプレーオフ進出が決まっており勝ちにこだわる必要はなかった。実際にサンダーは途中22点差をつけられると主力選手たちを下げた。

しかし、ムスカラやダリアス・ベイズリーなどベンチから出てくる選手が流れをつかむと徐々に点差は詰まり残り35秒にはムスカラの3Pで遂に同点に追いつく。相手に得点を返され追う展開になるが残り5.2秒で再びムスカラが3Pを決めると逆転。

この魂の一撃が決勝点となり、サンダーは22点差ビハインドから劇的な勝利をおさめた。

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このゲームウィナーはプレーオフに向けて間違いなくチームを勢いづけた。だが皮肉なことに再建に向けたチームの勢いは止めかねないシュートでもあった。

サンダーはこの試合で勝利をおさめたことによりジャズ/ペイサーズを抜きリーグ10位以上が確定。サンダーは2016年に「2020年TOP20プロテクト指名権」を対価にシクサーズから「ジェラミ・グラント」を獲得していたので、この勝利によりサンダーの2020年ドラフト指名権はシクサーズに譲渡されることになったのだ。

「押すなよ、絶対押すなよ」や「男気じゃんけん」といったバラエティ番組でも人気のおもしろ要素が詰め込まれた(個人的にはそう感じている)この“勝ったら指名権がなくなる試合でゲームウィナー”を炸裂させたムスカラが「マイク・アンチタンク・ムスカラ」の二つ名を欲しいがままにした瞬間だった。

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更にこのシュートのおもしろさは“勝ってはいけない試合でゲームウィナー”だけにとどまらない。

シクサーズはマイク・ムスカラ魂のシュートで手にしたドラフトピックでタイリース・マキシーを指名、この指名が大当たりだったことでシクサーズファンたちはムスカラをレジェンド扱いし始める。マキシー大活躍時には“Thank you Mike Muscala”という現地シクサーズファンTweetが溢れるなどシクサーズファンによるムスカラへの賛辞はとどまることを知らない。

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ラッセル・ウェストブルックにポップコーンを浴びせ、メンタルイルネスに追い込むほどベン・シモンズにバッシングを浴びせたシクサーズファンがムスカラには感謝感激雨霰を浴びせている、という事実がこのゲームウィナーのおもしろさに拍車をかける。

NBAファン、ブルズファン、MJファンには怒られるかもしれないが、個人的にはムスカラがヒート相手に決めたゲームウィナーを“The Shot”と呼びたい。

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無事サンダーの指名権をなきものとしたムスカラはサンダーで2シーズン目を迎えた。

2020-21シーズン、サンダーは本格的に再建へと舵を切り出したタイミングで若手育成のため(それ以外の理由があるのかもしれないが)にムスカラの出場時間は限られていた。その中でも結果を残しサラリーも安価だったムスカラには常にトレードの噂が付きまとう。

それでも結局トレードに出されることなくシーズンを終えたムスカラはシーズン終了会見でサンダーに残ったことに対する喜びを表現した。

トレードされる可能性があることは分かっていた、でもオクラホマシティに残ることができて本当にうれしかったよ。

ちょっと感情的になっちゃうかもしれないけどOKCに来ることができてとにかく感謝している。人としても選手としてもたくさん成長した。組織の価値観やここにいるファンが、自分の考えにとても合ってると思うんだ。多くの人がCOVIDで苦しんでいるときでさえ、毎日が充実していて練習に励むことができた。ただバスケットボールをプレーする機会があるだけでも自分にとっては大きな意味があるんだ。選手として、何を目指しているかを知りたいのは当たり前だけどサンダーは正直で風通しがよくて、それが本当にありがたいんだ。

 マイク・ムスカラ

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そのオフFAだったムスカラは同じ会見で「もちろんサンダーに戻ってきたい」と発言、FAが解禁されると有言実行で即座に再契約を結んだ。

夏はオクラホマに残り練習を続け、若手主体で行われていたラスベガスのワークアウトにも参加した。若いサンダーがこれから進んでいくべき道のりを一緒になって歩んでくれるベテランにはGMもチームの若手選手たちも全幅の信頼を寄せている。

マイクのチームと組織に対する思いにはとても感謝しているし感心すらしているよ、我々の存在意義や日々の取り組みにとても合っている。

 サム・プレスティ

マイクがこのことを知っているかは分からないけど、彼のことも取り組む姿勢も尊敬してるんだ。いつでも求められていることをやるし、いつでもポジティブだ。コーチは“正しい行動をすること”をリーダーの素質だと言っているけど、マイクはそれをいつもやってる。それにマイクを見たらわかると思うけど、調子の良し悪しに関わらず試合に出たらいつでも同じエナジーで同じだけ頑張るんだ。

 ダリアス・ベイズリー

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2022年夏、再びFAとなったムスカラはまたサンダーに帰ってきた。

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2019年の夏からマイク・ムスカラはずっとサンダーに対して愛情、忠誠、漢気を示し続けてきた。

サンダーとムスカラが契約を結ぶのはこれで3回目だ。3度目の正直という言葉があるが、今季こそサンダーはムスカラの思いアンチタンクに誠意を見せるべきである。それは過去2年間できていなかったが今季のサンダーはそれができるチームだと信じたい。

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