コービーとウェストブルック

Kobe Bryant says Russell Westbrook is closest to him in intensity
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“このガキは何者なんだ?”

その日、UCLAで行われたピックアップゲームに参加していたコービー・ブライアントの目を引く16歳の選手がいた。

そいつはコートのどこにでも現れて、とんでもない負けん気でプレーしていた。名前すら聞いたことのない選手だったんだ。衝撃を受けた、スカウトは何を見てるんだって感じだよ。

 コービー・ブライアント

その選手の名前を教えてもらった、どうやらラッセル・ウェストブルックというらしい。

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チャレンジ

コービーはそれを“チャレンジ”と表現した。

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2010年ウエスタンカンファレンスプレーオフ1st.ラウンド、第1シードのロサンゼルス・レイカーズは第8シードのオクラホマシティ・サンダーを迎え撃った。

史上最年少21歳で得点王となったケビン・デュラントがいたとは言えサンダーは主力がほぼプレーオフ初出場の若手集団、一方でレイカーズは前年チャンピオンで百戦錬磨のベテラン集団。下馬評ではレイカーズが有利だった。

(ESPNでは勝敗予想をした全員がレイカーズを選択)

出典:http://www.espn.com/nba/playoffs/2010/matchup/_/teams/thunder-lakers

しかし、蓋を開けてみるとシリーズは第4戦を終えて2勝2敗。ディフェンディングチャンピオンは苦戦していた。

レイカーズとしてはデュラントにやられることはある程度想定していたかもしれなかったが、ラッセル・ウェストブルックに第4戦までで平均21.8得点(レギュラーシーズンでは平均16.1得点)とペイントで暴れ散らかされるのは想定外だった。

負けると後がなくなる王者は第5戦のティップオフ直後から仕掛ける、絶対的エースのコービーがウェストブルックをマークしたのだ。しかも、コービーは自らウェストブルックのディフェンスをフィル・ジャクソンHCに志願していた。

オレたちがアジャストしないといけなかった。ロン(ロン・アーテスト、レイカーズのエースストッパー)はデュラント相手に本当にハードにプレーしている。だけどラッセルにペイントで仕事をされていた、自分がものすごいディフェンダーだと分かっているからオレがマークした。

もしシリーズに負けたら、他にできたことがあったのになんて考えて夏休みを過ごさないといけない。そんなのは嫌だ、だからオレはその“チャレンジ”を受けて立った。

 コービー・ブライアント

コービーはその試合9本しかシュートを打たず(シーズン最低)、ウェストブルックをディフェンスすることにすべてを注いだ。結果、ウェストブルックは15得点(FG 4-13)、8ターンオーバーと抑えられサンダーも大差で敗れた。

続く第6戦は接戦となったが、パウ・ガソルがプットバックゲームウィナーを決めるとサンダー球団初のプレーオフは幕を閉じる。

そして、シリーズ終了後にコービーはデュラントとウェストブルックにハグをしこう言った。

“お前ら2人は最悪だ、対戦が終わって嬉しいよ”

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自ら志願してマークしただけでなく、それを“チャレンジ”と表現し全力で潰しにきた。既にオールスター&得点王だったデュラントと同等に扱った。

それはNBA2年目21歳のウェストブルックに対するリーグを代表する選手からの最大限のリスペクトだった。

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メンタリティ

ラッセルが立ち上がって前を通ったとき、今まで見たこともないことが起こっていた。顔がへこんでたんだ、信じられなかった。

 ロバート・パック(元サンダーAC、現ウィザーズAC)

2015年2月、ポートランドでの試合でアンドレ・ロバーソンの膝がウェストブルックの頬を直撃した。外傷こそなかったが、パックの言葉どおりウェストブルックの頬はへこんでいた。検査の結果、骨折と分かりすぐに手術をした。

実際にへこんでいる写真を見たい場合、“Westbrook cheekbone”と検索したらヒットする

話はこれで終わりではない、ウェストブルックは手術で1試合欠場するとすぐにコートに戻ってきた。そして、49得点(当時キャリアハイ)、16リバウンド(当時キャリアハイ)、10アシストのトリプルダブルでサンダーを勝利に導いたのだ。マイケル・ジョーダン以来の4試合連続トリプルダブルのおまけ付きだった。

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先の2010年プレーオフで一皮剥けたラッセル・ウェストブルックは翌シーズンにはじめてオールスター&オールNBAに選出されるなどスター街道を突き進み始める。1度目のブレイクがこの2010-11シーズンだとすると、更に殻を破ったのは2014-15シーズンだろう。

優勝を期待されていたシーズンだったが、怪我人続出でサンダーは思うような成績を残せていなかった。後半戦に前年MVPケビン・デュラントのシーズン全休が決まると、ウェストブルックは一人気を吐く。

鬼気迫るウェストブルックを特に表していたのが、頬を骨折した後に49-16-10を記録した試合だった。“ケビンが戻ってこないと分かってからは、プレーオフに出場するためにとにかくできることをやった”とシーズン終了会見で語っていたが、その言葉以上に何かを証明するかのような気迫を感じた。

デュラントが抜けた後、2〜4月まで3ヶ月連続でPlayer of the Monthを受賞したウェストブルック。患部を守るためのフェイスマスクだったが、狂気すら感じた執念と意地にこのマスク姿も相まって人間とは思えなかった。それくらいこの時期のウェストブルックは凄まじかった。

超人的な活躍でチームを引っ張る一方でウェストブルックのシュート本数が多いことやシュートセレクションの悪さを批判する声も大きくなっていた。拍車がかかったのが4月のインディアナ戦だった。ウェストブルックはキャリアハイ54得点を挙げたもののチームが敗れると、その試合で43本シュートを打ったことが大きく取り上げられた。

ウェストブルック自身は「気にしていない」と発言したものの段々と大きくなる周りの声にフラストレーションは溜まっていく。

オレは誰も本当のことを言ってるだなんて思っちゃいない、気にしてない。毎試合このリーグでオレよりハードにプレーしてる選手なんていないし、それを誇りに思ってる。チームメイトもオレも誰も気にしてない。

 ラッセル・ウェストブルック

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そうした批判にさらされるウェストブルックの味方をしてくれたのがコービーだった。

“54-9-8に加えてFG49%なのに、メディアが取り上げるのは43本シュートを打ったことだけ”

というメッセージ画像とともに“Stop it”「やめろ」というハッシュタグをつけてTweetをしたのだ。

実はこの2ヶ月前にもコービーは批判を受けるウェストブルックについてコメントをしていた。

ラッセルはオレと同じメンタリティを持ってると思う、試合に出たら何を言われようが全力を尽くすというね。試合への取り組み方に関して言えば、100%オレと同じだ。

 コービー・ブライアント

あまりにも勝負に対する執着心が強すぎ、ときにその姿勢がわがままとも見なされる。

リーグ史上屈指のスターはウェストブルックのその姿に自身を重ねていた。

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レガシー

コービーがウェストブルックを自身と比較するようなコメントをしたのはこのときだけではなかった。

メディアから「似ている選手は誰か?」「同じメンタリティでプレーする選手は誰か?」そういった類の質問がある度ウェストブルックの名前を挙げ続けてきた。

ラッセルにはオレがシャックとプレーしていたときに持っていて、今でも持ち続けているようなモノがある。 

 コービー・ブライアント(2012年2月)

(自身と最も同じくらい激しくプレーをする選手を挙げるとしたら)一番近いのはラッセルだ。あいつは怒りでプレーする、普通じゃない。とんでもなくアグレッシブにプレーするんだ。

 コービー・ブライアント(2014年12月)

(ウェストブルックとの共通点について)たくさんある、たくさんだ。オレもコートでは笑顔を見せないし、あいつはものすごいエナジーでアグレッシブにプレーする、でも十分に理解されていない。カッコつけてバスケットボールをしないし、相手と馴れ合ったりしない。試合に出たらどんな瞬間もハードにプレーする。そうやってプレーするにはものすごいエネルギーが必要なはずだが、あの男はガス欠しそうにもないんだぜ。

 コービー・ブライアント(2016年4月)

TVで選手のプレーを見ていて、感情面や気骨、競争心、熱量などを含めて自分と同じだけのものを持っていると思うのはラッセルだ。相手が誰だろうと、勝てる可能性が低いと言われようが、そんなことは関係なく向かっていく。毎試合110%の力を尽くす選手だ。

 コービー・ブライアント(2016年8月)

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話は冒頭のピックアップゲームに戻る。

その日、UCLAで衝撃を受けたのはコービー・ブライアントだけではなかった。

16歳のときUCLAのピックアップゲームでコービーに会った、そこでコービーはまるでNBAファイナルのようにプレーしてたんだ。その時からMamba Mentalityを見習ってプレーしたいって決めた。

 ラッセル・ウェストブルック

まだ同じ舞台にすら立っていなかった2人が互いの闘争心に惹かれた。一方はその背中を追い続け、もう一方は追いかけてくる者の背中を押し続けてきた。

コービーの中に自分がいつでも持っているモノを感じていた。コービーは友だち、兄貴、先生になってくれた、いつでも味方でいてくれて自分のことを信じてくれた、どうやって難局に立ち向かうかを教えてくれた。だから自分は止まることなく走り続けることができたんだ。自分のアイドル、そして目標でいてくれたことに感謝したい。

 ラッセル・ウェストブルック

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はじめてコービーに出会ったあのピックアップゲームのときから身長も年齢も立場も何もかも変わってしまった。それでもあの日コービーの度肝を抜いたメンタリティは今も変わらない。今季は今は亡きヒーローと同じユニフォームを身にまとい止まることなくまた走り続ける。

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