アリーナ全体で“カップケーキ”チャントが起こっていた。2016年の夏、ウォーリアーズに加わったケビン・デュラントがサンダーを去ってから初めてオクラホマシティに帰ってきた試合だ。
当時高校生だったトレイ・ヤングは父親とサンダーのホーム、チェサピークエナジーアリーナの“いつもの場所”でその試合を観ていた。
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憧れのクリス・ポール
バスケットボール少年、トレイ・ヤングがオクラホマに引っ越してきたのは6歳のときだ。父親レイフォードがポルトガルでのプロ生活に終止符を打ち、家族で母親キャンダイスの地元に戻ってきた。
オクラホマに引っ越した翌年、少年トレイにとって嬉しい出来事が起きた。ハリケーンカトリーナの影響でニューオリンズでのプレーができなかったホーネッツの一時的な本拠地としてオクラホマが選ばれたのだ。
大好きなバスケットボールの最高峰のリーグ、しかも大好きな選手が目の前で観られるまたとない機会だ。
クリス・ポールが大好きなんだ。自分の住んでいるところにNBAチームが来るなんて最高だよ、NBAの試合を観れるんだから。その当時やることなんてなかったから試合を観に行くのが本当に楽しかったんだ。
トレイ・ヤング
当時ホーネッツに在籍していたデズモンド・メイソンとレイフォードは大学時代の友人だった。そのメイソンに紹介してもらいトレイは憧れのCP3に会うことができた。
トレイはずっとクリスを見てきた、たぶん初めて好きになった選手じゃないかな。トレイは“nutmegg”で有名だと思うけど、あれはクリス・ポールのまねなんだ。この間のクリスの“nutmegg”を見ただろ?
レイフォード・ヤング
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不思議な巡り合わせも起きた。トレイがNBA入りした翌年にポールが今度はサンダーとしてオクラホマに戻ってきたのだ。
2020年1月、2人が出会った場所でかつてのファンと憧れの選手の対決が実現した。
すごいことだよね。トレイがAAUでプレーしてるときから彼のことは知っているし、ここでプレーしてたとき試合後に会ったことを覚えてる。そのときに両親とも会った、特別な経験だよ。一番よかったのはトレイの名前が呼ばれたときにファンから大歓声があがったところを見れたことだ。
クリス・ポール
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119ファミリー
ボビーはチェサピークエナジーアリーナのセクション119で案内係を10年以上務めている。
サンダーの試合があると、アリーナでいつもバスケットボールについてボビーに話をしてくる男の子がいた。その子は自分の活躍ぶりを話していたがボビーは信じていなかった、彼はあまりにも小さくて細かったのだ。
ある日ボビーがローカルニュースを見ていると、地元ノーマンノース高校で目覚ましい活躍をしているバスケットボール選手が紹介されていた。見覚えのある顔でいつも話をしてる男の子と同じ縮れ毛だった、名前はトレイ・ヤング。
この子は本当にすごい選手だと知ったんだ、その日のことを全部彼に話したよ。
ボビー

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2007年にホーネッツがオクラホマからニューオリンズへと本拠地を戻すと、今度はその1年後サンダーがオクラホマにやってきた。トレイと父レイフォードはその時からずっとシーズンチケットホルダーでセクション119のR-3&4が2人の席だ。
トレイはサンダーの試合がある日は宿題をすぐに済ませてアリーナが開くと同時に会場入りしていた。試合前の選手たちのルーティンをずっと見ていたのだ。
10年サンダーのシーズンチケットホルダーだったんだ、子どものころは可能な限りたくさんサンダーの試合を観に行ったよ。
トレイ・ヤング
ケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルック、ジェームス・ハーデン、そして大好きなスティーブ・ナッシュ、クリス・ポールをじっと見ていた。小さな体で大男を相手にプレーするジャミーア・ネルソン、DJ・オーガスティンにも自身を重ねた。
試合が始まっても立ち上がって応援することはほとんどなく、ポイントガードがどのようにプレーするのかを観察していた。隣のR-5に座っていたマイクによると、接戦になるとようやくトレイはサンダーの応援し始めたそうだ。
マイクにはもう一つトレイの話がある。ハーフタイムになるとマイクはいつもトレイにアイスクリームを食べるか聞いていた。トレイはいつも断っていたが、マイクはいつでもトレイの大好きなチョコレートバニラを買って戻る。
アイスを買って彼にあげたらいつも全部食べてたよ、大好きだったんだから。
マイク・ハンコック
逆側のお隣さん、つまりR-1&2のシーズンチケットホルダーのデイベンポート夫妻はサンダーファンでもあり、オクラホマ大学の大ファンでもあった。レイフォードとも昔からの馴染みだったこともあり、息子トレイの試合も中学・高校・AAUとずっと見てきた。そして、トレイが大ファンのオクラホマ大学に入学する。
パーフェクトなアメリカンストーリーだよね。トレイはすばらしい家族のもとに生まれた。家族がいつもサポートして、トレイは早い段階からデカイことを成し遂げようとしてきた。すばらしい両親だよ。
ジム・デイベンポート
そんなセクション119での出会った仲間はファミリーだとマイクは言う。
今や我々はファミリーだ、みんながお互いのことをよく知っている。なんだか不思議だ、みんながこんなに仲良くなるんだから。試合のよかったこと、悪かったことを何度も共有してきた。バスケットボールがこんな風に影響するんだからすごいよね。
マイク・ハンコック
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2018年12月、トレイ・ヤングがNBA入りして初めてのチェサピークエナジーアリーナでの試合、トレイの名前がコールされるとアリーナ中から歓声があがった。このとき、“いつもの場所”からの歓声は一際大きかったはずだ。
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ブーイング
トレイはその日もチェサピークエナジーアリーナでサンダーの試合を観ていた、おそらく他のサンダーファンとは違った視点で。
その試合で前年までサンダーのフランチャイズプレイヤーだった選手がオクラホマで大ブーイングを受けていた。
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2021年プレーオフ、トレイ・ヤングはアウェイでプレーするたびに敵チームのファンから野次をとばされている。
“Fuck Trae Young” “Trae is balding”
何度も何度も繰り返される。
敵チームのファンはその野次でトレイの調子を狂わせようとしていたのだ。しかし、それは効果がなかったし、むしろトレイはそれを自身のエネルギーに変えていた。
トレイにとって憧れの選手たちでさえも野次に対抗しないといけない。トレイはいかに周りがレブロン・ジェームスのことを何も成し遂げていないかのように“ハゲ”と呼ぶか、あれだけ愛されていたKDが嫌われるようになっていったか、全部見てきた。憧れの選手たちがそういった中で闘う様も目の当たりにしてきたんだ。
レイフォード・ヤング
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その日、高校生のトレイは大ブーイングを浴びるケビン・デュラントを目の前で見ながら“自分ならこの中でどうプレーするか”を考えイメージしていた。そして、その時のことを今でも忘れていない。
あらゆるブーイングにも臆せずシュートを打ち続けるトレイのメンタリティ、その原点の一つがあの日のチェサピークエナジーアリーナでの経験だ。
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オクラホマシティとクリス・ポール