オフシーズンを盛り上げる男 オーリン・シンプリス

オフシーズンになるとNBA選手たちはチームも年齢も関係なくトレーナーの元に集まりワークアウトを行う。そして、渡邊雄太vsスティーブン・アダムスの1on1やベン・シモンズの3Pなどシーズン中には見られない光景にSNSが盛り上がる。

オーリン・シンプリスはトレーナーの中でもたくさんのNBA選手たちから信頼を得ている1人だ。オーリンの元にはシェイ・ギルジャス・アレキザンダー、八村塁、スペンサー・ディンウィディー、ディアンドレ・ハンターなど実績ある選手たちが多数集まる。

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オーリン・シンプリス

オーリンの元に集まる選手にはある共通点がある。

それはほぼ全員が同じエージェンシーに所属しているという点。

大手エージェンシー、ワッサーマンのエージェントを務めるジョー・スミス(NBAで16シーズンプレーした選手、半年だけサンダーにも所属し36試合に出場している同姓同名の別人だった…)とオーリンは昔なじみの友人であり、スミスの紹介でワッサーマン所属の選手たちはオーリンの元を訪れるようになっていった。

渡邊雄太と八村もワッサーマン所属。渡邊は2019年にハンター、シェイ、ブルーノ・カボクロと共にオーリンの元でワークアウトをしていた。

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選手の希望、所属するチームのニーズに応えるのがオーリンの指導法。

例えば、サンダーに移籍したばかりのシェイに対してはラッセル・ウェストブルックと同じ役割を担うと想定して練習をした。

我々はシェイが集中して取り組みたいものとサンダーのシステムで担うであろう役割に練習を割いた。シェイはラッセル・ウェストブルックのようにかなりボールを扱う時間が増えると想定している。だからサンダーのオフェンススキームに合うように個人練習をしないといけない。ラスのようにフリースローラインあたりをドリブルでアタックできないといけない。

 オーリン・シンプリス(2019年オフ)

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そして、選手が自信を持ってプレーできるようにすることもオーリンは心掛けている。

バスケットボールは自信がすべてだ。どの分野を伸ばすにしても自信が大事だ、それが上手い下手は関係なくね。だから、私のワークアウトではたくさんのことを試合のスピード、シチュエーション、疲労感で行う。ワークアウトでフレッシュな状態でシュートを打つことはありえない、疲れていない状態でプレーすることなんて試合ではないからね。ゲームシチュエーションの経験が自信に変わっていくんだ。

 オーリン・シンプリス(2021年オフ)

オーリン曰く、練習は“fresh foot”「新鮮な足=疲れていない状態」ではなく“dead foot”「死んだ足=疲れ切った状態」でやらないといけない。

周りはあれこれ疑ってくるもんだ。でもオーリンはいつでも自信を持つように言ってくれる、2人で夏にあれだけハードに練習してきたからオーリンはオレならできるって知ってるんだ。

 シェイ・ギルジャス・アレキザンダー(2019年シーズン)

中でもオーリンが手塩にかけて育ててきたのがスペンサー・ディンウィディー、なんと12歳の頃からコーチしているそう。Youtubeにはまだ大学入学前のディンウィディーにオーリンが稽古をつける映像が残っている。

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シェイ・ギルジャス・アレキザンダー

NBAドラフトに先立ちワッサーマンエージェンシーに所属したシェイはオーリンの元を訪れる。はじめてのワークアウトで文字通りシェイは“dead foot”を体感したのであった。

クレイジーだった、はじめてオーリンのところに行ったとき8時に寝て起きたら朝の8時だったんだ。体中がパンパンで何もできなかった。

 シェイ・ギルジャス・アレキザンダー(2019年シーズン)

その年からシェイはオフの度にオーリンの元でワークアウトをしている。

ドラフト前にシンプリスの元を訪れるシェイ

ドラフト前に2人が力を入れて取り組んでいたのはシュートのリリースポイントの改善。

当時、シェイのリリースポイントは鼻よりも下でスカウティングレポートでも弱点と書かれていた。

スペンサー・ディンウィディーにも同じように背の高いガード特有の問題があった。彼らは生体力学的に手が長いから普通の人とは違うだろ?まず股関節も膝もそれほど使わずにシュートを打てるし、ボールがリリースポイントに行くまでには足が伸び切っている。だから速くリリースポイントに持っていく練習をした、2年目の夏は更に取り組んだよ。

 オーリン・シンプリス(2019年オフ)

“一般人ならシュートのときに腕と脚の伸ばすタイミングを合わせられるが腕が長いと腕が遅れる、だったら速くリリースポイントまで持っていけばいい”というのがシンプリス理論。技術論に見せかけた精神論?

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オーリンがシェイに教えたことはスキルに限らない。

はじめてシェイを見たときに内股になっていることに気が付いたオーリンは膝がまっすぐ使えるように股関節や臀部(お尻)のトレーニングを行った。そうして地道に弱点を克服してきたシェイは数多の選手を見てきたオーリンも認める努力家だ。

シェイはスポンジだ、あの子にはあの年にして凄まじい負けん気がある。最近の子はみんな仲良くなろうとするけど、シェイはそうではない。どんなことにも勝とうとする、はじめて会ったときから大好きなんだ。コーチの言うことをしっかり聞くから何でも教えられるし、何でもマスターしようと努力する。もしできなかったら、次の日にもその日の夜にでも体育館に戻ってきて練習するんだ。グレイトになろうとしてる、大好きだ、大好きだよ。

 オーリン・シンプリス(2019年オフ)

毎年オフにレベルアップして帰ってくるシェイ、今オフもオーリンの元で修行をしており今季の更なる成長にも期待大。

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渡邊雄太

昨季ラプターズで2way契約から本契約を勝ち取った渡邊もオーリンの元でワークアウトを続けてきた選手。

オーリンは渡邊が自信を持ってプレーできるように練習を重ねてきた。

NBAではときに自信を崩される、2way契約や不安定な契約状況が続いたりするとね。雄太は静かで内向的だけど、自信を持っているし練習熱心だ。この夏は一皮剥けて他の選手ともやり合っていた、見ていて楽しかったよ。

(自分のワークアウトを通じて)自信がついたと思うけど、その自信は自らの努力が前提だ。この子はハードワーカーだ、このオフシーズンは毎日2回の練習とウエイトをこなした。朝の練習の後にウエイトをして、また夜シューティングをしていたんだ。加えて週に2回5on5もやっていたけど、雄太はものすごい安定したプレーを続けていた。

 オーリン・シンプリス(2021年オフ)

オーリンがハードワーカーと評するペイトン・プリチャードとはワークアウト後に毎回1on1をしていたそう、オーリン曰く“2人はやり合っていた、いい関係を築いていた”

ラプターズとの契約に自分が少しでも貢献できて嬉しかった、ただ雄太はこれからが大事だ。まだ若いし、伸び代がたくさんある。複数年契約にとどまらず、これからすばらしいNBAキャリアを歩んでいくはずだ。

 オーリン・シンプリス(2021年オフ)

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スティーブン・アダムス

今オフはシンプリスの元でワークアウトをしており、例年以上にジャンプシュート&3Pに取り組んでいるアダムス。

我々は今でもポストの練習をしている、ビッグマンに対して“ポストでボールを持つな”なんて指導はしない。もちろんシュートの練習はしているけど、(試合で打つかどうかは)コーチ次第だ。ただ、コートを広げるという意味ではプラスになる。

 オーリン・シンプリス(2021年オフ)

“dead foot”の法則はアダムスにも適用される、シンプリス曰くアダムスがピンダウンから(スクリーンを使って)3Pを打つ練習をしているのはそれを試合で使うからではなく、動きの中で3Pを打つフットワークやシュートまでの一連の動作を身につけるため。

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シンプリスは3Pを打つことは目的ではなくチームの勝利に貢献するための手段ということを強調していた。

3Pを打つことでアダムスのプレーの幅は広がるが、彼の持ち味を忘れてはいけない。バスケットボールIQが高くて、正しいプレー、正しいパスをするし、先を読んでプレーすることができる。

 オーリン・シンプリス(2021年オフ)

ちなみにアダムスはこの夏のシンプリスキャンプで行われたスクリメージ3試合で3Pを5/7決めたそうだが、「今季アダムスの3PをNBAで見られるか?」という質問に対してシンプリスは一瞬黙って苦笑した後、当たり障りのない上記のコメントを残すに留めた。

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