【サンダー事件史】ザック・ランドルフの顔面パンチ

“スティーブン・アダムスにハメられた”

ザック・ランドルフは2014年プレーオフで自身が犯した過ちを次の夏ずっと後悔することとなった。

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熱戦、4試合連続オーバータイム

2014年、ウエスタンカンファレンスのプレーオフ争いはNBA史上最も激しかったかもしれない。

グリズリーズ(MEM)、マーベリックス(DAL)、サンズ(PHX)の3チームが最終戦まで残り2つのプレーオフ進出枠を争っていた。しかも、その3チームがそれぞれ最後の2,3試合で直接対決をしたのだから熱くならないわけがなかった。

結局、直接対決でDALとMEMに2連敗したPHXが48勝34敗というすばらしい成績を残しながらもプレーオフ争いから脱落し、DAL(49勝33敗)が8位でMEM(50勝32敗)が7位でそれぞれプレーオフに進出した。

50勝レベルのチームが下位シードで、しかも激しいプレーオフ争いを勝ち抜いて勢いに乗った状態であがってくるのだから上位シードのチームからしたらたまったものではない。

第8シードのDALは第1シードで前年ウエストチャンピオンのスパーズ(SAS)と対戦。第3戦にはビンス・カーターのブザービーターも炸裂し一時的にDALが2勝1敗とシリーズをリード、第7戦までもつれ込みあわやというところまでSASを追い込んだ。

このシーズンはSASが優勝するが7戦までもつれ込んだのはこのシリーズだけだった

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ブラケットの逆側にいた第2シードのサンダーも第7シードのMEMに苦しめられていた。

第1戦こそ危なげなく勝利するも、第2戦からは激しい戦いが繰り広げられ、なんと第2戦から5戦まで4試合連続オーバータイムとなった。(NBAプレーオフ史上初&唯一の記録)

ケビン・デュラントのクラッチサーカス4P、ケンドリック・パーキンスのプットバックブザービーター、ラッセル・ウェストブルックのクラッチ4P、スティール&同点ダンクとこのシリーズだけでサンダー史に残るクラッチプレーがたくさん生まれた

エースのデュラントがトニー・アレンに密着ディフェンスされていたのも苦しかったが、何よりもザック・ランドルフ&マーク・ガソルというMEMの超フィジカルなインサイドコンビにサンダーは手を焼いていた。

そして、サンダーが2勝3敗と後がないところまで追い込まれると第5戦までほとんど出番がなかったある選手に白羽の矢が立てられる。

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当時ルーキーのスティーブン・アダムスに。

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「アダムスにハメられた」

第6戦、負けたらシーズン終了の試合でまさかの大抜擢をされたアダムスはベンチから20分以上出場しその期待に応えた。

チームは自分の得点に何ら期待していなかったし、それほどリバウンドが取れていたわけでもなかった。だから、とにかくマークマン相手に点を取られないことに集中していた。ベンチで1週間休んでいたから足が軽く感じていて、キャリアハイの5ブロックを記録した。

 スティーブン・アダムス

Steven Adams『MY LIFE, MY FIGHT』(2018) hachette BOOKS, p.162

言葉通りアダムスは相手に体をぶつけ続けフィジカルにプレーし続けた。

すると、4Qに事件は起こる。

4Qの途中で、オフェンスをしようと走り出したらザック・ランドルフと腕が絡んだ。自分は腕を払いのけたが、おそらくランドルフはそれが気に入らなかったのだと思う。彼に突き飛ばされた。

 スティーブン・アダムス

Steven Adams『MY LIFE, MY FIGHT』(2018) hachette BOOKS, p.162
突き飛ばされた(渾身の右ストレート)

映像で見るとものすごいパンチが炸裂しているように見えるが、試合中のアダムスは全く痛がっておらず(というよりこのプレーのレビューのために時計が止まるとアダムスは直前のスクリーンプレーでファールを吹かれなかったことに不満げだったラスをなだめに行っていた)、この試合では通常ファール扱いとなった。

大抜擢に応えたアダムスの活躍もあり、この試合でサンダーは勝利をおさめ勝負は運命の第7戦へと進む。

しかし、この試合後にシリーズを決定付ける出来事が起きた。このパンチがレビューされると、なんとザック・ランドルフは第7戦出場停止処分になったのだ。

チームの大黒柱を欠いたMEMは続く第7戦を落とし、グリズリーズのシーズンが終了した。

当時ランドルフはこのことを深く後悔していた。

あいつのせいで今まで7人が出場停止になってるんだぜ?調べたら分かるだろ、なんでみんながみんな特定の選手と小競り合いになる?

正直あれがあいつのプランだったんだ、オレはそれにまんまとハマった。オレのせいだ、そんなのにハマる歳でもないのに…。オレを出場停止に追い込む作戦に自分から引っかかった。この夏の間ずっと後悔するだろうね、それが相手の作戦だったんだ。

 ザック・ランドルフ

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もちろん、これだけのパンチを食らったアダムスも黙っていない。

そりゃあ怒ったよ、次の日の朝あごが痛くてワッフルが食べられなかったんだから。オレ食べものが大好きなんだぜ。

 スティーブン・アダムス

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「みんながぶつかってきた」

後にアダムスは当時のことをJJ・レディックのポッドキャストで振り返った。

あの年はみんなが殴ってきた、自分がめちゃくちゃハードにプレーしていたからね。それしか言われてなかったんだ。まるで殺し屋みたいに「試合に出たらハードにフィジカルにプレーしろ」って依頼されて、誰が相手だろうと体をぶつけまくってたら対戦相手みんな試合から退場させられていった。狙って肘鉄をくらわされたこともあった。

相手はオレを痛がらせようとするけど、淡々とプレーを続けるから余計ムカつくんだろうね。ただプレーを続けてリアクションなんてしないからさ。

 スティーブン・アダムス

当時HCだったスコット・ブルックスの印象にもこの顔面パンチは強く印象に残っていたようだ。

今言うのはズルいかもしれないけど、サム・プレスティがスティーブンをドラフトしたとき、それより前のプレドラフトワークアウトをしたときから彼に才能があることは分かっていた。器用で当時バスケットボールの知識がそれほどなかったのにスペシャルなプレーをしていたからね。それであの練習熱心な姿勢ときた、マーク・ブライアント(アシスタントコーチ)とあれだけハードに練習したら上達するよ。

メンフィスとのシリーズでパンチを食らったのに次の日の朝ワッフルが食べられないから「あれ、昨日なんかあったけ?」となって、スティーブンははじめて殴られてたことに気付いんたんだ。それでみんなでそのシーンを見返して“ランドルフ、殴っとるやないかい”となって出場停止になり我々はシリーズに勝利した。殴っても殴られても気が付かない、それがスティーブン・アダムスなんだ。

 スコット・ブルックス

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サンダーの勝利を引き寄せたアダムスだったが、アダムスにとってもこの試合が転機となった。

第6戦の活躍をきっかけにアダムスはプレーオフでローテーション入りを果たすと、続くクリッパーズとのセミファイナル第6戦では40分出場するなど、ブルックスの信頼を勝ち取った。その翌シーズンからはパーキンスからスタートの座を奪い取り、サンダーのスタートセンターを6年務めることになる。

味をしめたサンダーは翌シーズン、MEMと対戦するときはマーク・ガソルにサージ・イバカをランドルフにアダムスをマークさせていた

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グリズリーズの運命もアダムスの未来も変えた顔面パンチから7年、アダムスはグリズリーズの一員となった。

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