“2度とあんな風に車をにらみつけるんじゃねえぞ、何が起こるか分かんねえだろ”
車がスピードを落として近づいてきていたら、運転手が何かに怒っているサインだ。対応を間違えたら危険、それが治安の悪い町ならなおさら。しかし、11歳のベン・マスリンはその運転手をにらみつけていた、何も起きないと確信していたのだ。そんな怖いもの知らずのベンに振り回されるのが兄ドミニクだった。
結局、何事もなく車は去っていき、その日”は”何も起こらなかった。
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プロフィール/プレースタイル
- 出身地 :カナダ ケベック州モントリオール
- 所属 :アリゾナ大学
- 年齢 :19歳(2002年6月19日生)
- 身長 :198㎝
- 体重 :95㎏
- 指名予想:6~14位
シーズン | 所属 | PTS | REB | AST | FG% | 3P% | FT% |
2020-21 | ARIZONA | 10.8 | 4.8 | 1.2 | 47.1 | 41.8 | 84.6 |
2021-22 | ARIZONA | 17.7 | 5.6 | 2.5 | 45.0 | 36.9 | 76.4 |
ベン・マスリンは内外問わず得点を取ることができる身体能力が高いウイング。
ESPNドラフトアナリストのマイク・シュミッツはトーナメントでマスリンが30得点を記録した試合をブレイクダウンし、以下の通り評価した。
シュミッツはこの試合でマスリンがポスタースラムや同点3Pといったハイライトプレーからオフェンスリバウンドからのプットバックといった細かいプレーまでこなしている点を高評価。また、リジェクト(セットされたスクリーンを使わずにドライブをするプレー)からトラップを仕掛けられてターンオーバーをしたが、次に同じプレーをした際にはコーナーにパスを出すなど試合の中で修正する能力も褒めている。一方で集中力に欠けるディンフェンスは課題、身体能力は高くディフェンダーになれる片鱗は見せている。
The Athleticドラフトアナリストのサム・ヴェシーニも同じくオフェンスは高く評価しているが、オフボールディフェンスで集中力に欠ける点を課題に挙げている。
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バックグラウンド
家族
ベンは父親を早くに亡くし、母親はシングルマザーとして3人の子どもを養うため毎日のように仕事に身を捧げていた。決して裕福な暮らしはしておらず、住んでいたところはドラッグが蔓延り事件も絶えない治安の悪い場所。
その環境で道を外さないよう面倒を見ていたのが姉のジェニファーだった。ベンと兄ドミニクを毎日学校に行かせ、帰ってきたら宿題をやるように言う。
お姉ちゃんがお父さんの代わりだったんだ。
ベン・マスリン
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ジェニファーがバスケ留学でアメリカへ渡ると、元々仲良しだったベンと兄ドミニクは2人で過ごす時間が増えより親密な関係になっていった。
2人が熱中していたのはバスケットボール、毎日のように公園のバスケットコートで何時間もピックアップゲームに明け暮れた。同じチームではなく、別のチームで対戦相手としてプレーするのが2人の暗黙の了解だ。
いつでもドミニクと対戦したかった、自分よりも上手い唯一の選手だったからね。
ベン・マスリン
2人はいつか姉ジェニファーのようにアメリカの大学でプレーすることを夢見て切磋琢磨し続けた。
しかし、その夢は叶うことなく散る。
2014年、ドミニクは交通事故で亡くなった。
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NBAアカデミー
兄であり、ライバルであり、親友でもあったドミニクの死によりベンは孤立していく。
ベンを1人にするわけにはいかないと思ったジェニファーは恩師ミッチェルに頼み一緒に暮らすように仕向けた。コーチミッチェルはベンを家に迎え入れただけでなく、自らが指導していた学校へと入学させた。
当時すでにベンのバスケットボールの才能はピカイチだが問題もあった。周りとはレベルが合わず、チームメイトを全く信用していなかった。
シーズンでも大事な試合でベンを下げたこともあった、どんな選手も一人で勝つことはできないことを知って欲しかった。
ミッチェル・ミテラス
問題はコート内におさまらない、ベンは休日になると何も言わずにストリートへ消えることが増えていった。道を外さないよう面倒を見てくれていた姉は近くにおらず、ベンの闘争心を刺激しバスケットボールの熱を高めてくれる唯一の存在だった兄はもういない。
コート内外でベンが環境を変える必要があると考えたコーチミッチェルはメキシコのNBAアカデミーに行くことをベンに勧める。始めは言葉も違う異国の地に行くことを躊躇したベンだったがNBAアカデミーのプログラム、施設に魅力を感じメキシコ行きを決めた。
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メキシコでも始めは問題だらけだった、スペイン語が話せなかったことに加え元々周りを信頼することが苦手なベンは誰とも話そうとしなかった。ハドルを組んでも一人だけ掛け声を出さず、コーチの指示も聞かない。そして、バスケットボールでも壁にぶち当たる。身体能力のゴリ押しが通用しないのは人生で初めての経験だった。
アカデミーはそんなベンのサポートに全力だった、カウンセラーやスタッフが日々ベンとコミュニケーションを取り徐々にベンは心を開いていく。コート上でも持ち前の闘争心で頭角を現し始めていた。
他の選手とベンが違ったのは向かっていく気持ちだ、ベストプレイヤーが相手でもベンは恐れず向かっていく。むしろ、喜んでチャレンジしに行くんだ。
ヘルナン・オラヤ(アカデミー育成コーチ)
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ベンはアカデミーで過ごしていくうちにフィジカルも技術も成長し、自信もつけていった。そして何より大事なことに周りを信頼するようになっていた。チームメイトとしても信頼され、声で引っ張る選手へと変貌を遂げる。
ベンは始めは静かで遠慮がちで声で引っ張ることなんてなかった。でも成長してリーダーとしての振る舞いやコート内外で背中で見せることを覚えたんだ。
グレッグ・コラッチ(アカデミーコーチ)
次第にディヴィジョンⅠのカレッジからの関心も集め始めると中でもベンに熱心なラブコールを送り、コーチングスタッフやプログラムが魅力的だったアリゾナ大学へ進学を決めた。”2人”の夢が叶った瞬間だった。
ドミニクはいつもアメリカの大学でバスケットボールをしたいと言っていた、オレがその夢を叶えることができたよ。
ベン・マスリン
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共に喜びを分かち合いたい兄はもういないが、ベンは今でもドミニクのことを思い続けている。腕に彫られた”Dominique”というタトゥーとどのシューズにも必ずベンが書く”Dominique”という文字がその証拠だ。
ドミニクのおかげで毎日力が出る、いつでも自分のモチベーションなんだ。ドミニクがいるから自分は毎日毎日ベストになろうと頑張れるんだ。
ベン・マスリン
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モントリオール
アリゾナ大学でマスリンは2年時に急激な成長を見せドラフトロッタリーピック候補へと昇りつめた。
そんなマスリンにはNBAで対戦したい相手がいる、それは自分と同じモントリオール出身のルー・ドートだ。
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モントリオールは公用語がフランス語で人気スポーツはアイスホッケー&サッカーとバスケットボールとは無縁の町だったが、クリス・ブーシェイ、ケム・バーチ、そしてドートとここ数年でモントリオール出身のNBA選手が増加している。
昨シーズン、その3人が揃ってコートに立ったときブーシェイは以下の通りコメントを残した。
みんなにモントリオールのことをもう少し注目してもらいたい、モントリオールには素晴らしい才能が眠っていることに気付いてほしいんだ。正直みんなオレら3人のことしか見てないと思うけど、モントリオールから来たたくさんの選手が才能に溢れていることを知っている、みんな国から出るチャンスが無いだけなんだ。興奮してるよ、3人全員がいいプレーをしていい試合ができたことでそれを示すことができたんだから。
クリス・ブーシェイ
マスリンはブーシェイが語る”素晴らしい才能”の1人でブーシェイやドートも可愛がっている選手。
特にドートはマスリンとは年齢が近くアリゾナ大学に進学を決めたときも「アリゾナに行くの?あそこオレたちが2回倒してるぞ(ドートはライバルのアリゾナステイト大学出身)」とからかったり、マスリンが在学中も常に連絡を取り合っていた兄貴的存在。
そんなドートと”同じチームになりたい”ではなく、”対戦したい”と言うのがマスリンらしい。サンダーファンとして2人の対戦を楽しみにしたい。
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ドラフト2022
モントリオールの星