スタッツから見るサンダー~超ハイブリッドディフェンス~

今季2022-23サンダーで疑問に感じたスタッツがあった。

サンダーは相手に打たせたミドルシュートの数がリーグで1番少なく、相手のミドルシュート成功率がリーグで3番目に低い。つまり、現代バスケットボールで効率が悪いとされているミドルシュートを一生懸命守っていることになる。

一見効率が悪いとも思えるディフェンスに意味・目的はあるのだろうか?

その謎を解明すべく、我々はアマゾンの奥地へと向かった。

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ディフェンスコンセプト

サンダーディフェンスの理念について、今季マーク・ダグノートHCは以下の通りコメントを残している。

ドライブに対してまずはネイルとエルボーでヘルプディフェンスをして、ペイントでも素早くヘルプする。(ゴール下のシュートを)ただチェックするだけではなく打たせないようになったのは成長した点だ、ゴール下に近づけさせずにジャンプシュートを打たせるということがここ10~12試合ではできるようになってきた。それがいい結果に繋がってきている。

 マーク・ダグノートHC

https://thunder-quest.com/2022/12/28/2022-23_rs34/
  • 『ゴール下に近づけさせない』
  • 『ジャンプシュートを打たせる』

この単純明快な2つがサンダーディフェンスの軸である。

ダグノートHCのコメント内の”ネイル”は「フリースローラインの中央」、”エルボー”は「フリースローラインの角」を示す言葉。

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『ゴール下に近づけさせない』

スターティングセンターを線が細いアレクシー・ポクシェフスキー、背が低いケンリッチ・ウィリアムスが務めることもある2022-23シーズンのオクラホマシティ・サンダー。

フィジカルや高さを捨てたサンダーが狙うのは機動力を活かしたヘルプディフェンス、ダグノートHCの言葉通りまずは『ゴール下に近づけさせない』のが狙い。

相手がどうペイントを攻めてくるか、どれだけ攻めてくるかが重要になる。だから、全員がヘルプの意識を持って5人でディフェンスをする必要があるんだ。

 マーク・ダグノートHC

それが数値に表れているのがテイクチャージ数で、今季サンダーはテイクチャージ数75回を記録しリーグぶっちぎりの1位に君臨している。

またヘルプディフェンスの意識の高さが表れている数値として挙げたいのはディフェンス3秒バイオレーション数(15回でリーグ4位、相手にフリースローが与えられるマイナスのプレーだがヘルプ意識の高さを定量化できる指標としてここではプラスに捉えたい。

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この『ヘルプディフェンスでゴール下に近づけさせない』、というのは数値だけでなく対戦相手の言葉にも表れている。

サンダーがどう守ってくるかは分かっていた。相手はとにかくペイントを固めてくるタイプのチームだ、いかなるドライブに対してもすぐにヘルプが寄ってくる。

 ジェボン・カーター

相手がどんなディフェンスをやってくるか早い段階で分かっていた。ピック&ロールをしてゴールに向かうと(隣の選手の)ヘルプがしっかりと寄ってくる

 シェイク・ミルトン

そして、ペイントに入られたときは徹底的に潰しに行く。

特にバスケットボールで最も効率が高いゴール下のシュートに対しては全員で守らないといけない。トランジションは5人全員で守る、ゴール下ではロスターの17人全員が体をぶつけて守る。

 マーク・ダグノートHC

サンダーが簡単にゴール下でやられない意識を強く持っていることは[表1]からもよく分かるはず。

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『ジャンプシュートを打たせる』

サンダーが相手に打たれた3P数は1試合平均35.4本でリーグで22位(=リーグで9番目に多く打たれている)、コーナー3Pに限ればその数字は10.8本(リーグ28位となる。

コンセプト通りシュートを打たれているが、「打たせる」というのは「オープンで気持ちよく打ってください!」ではない。

サンダーの3Pシュートチェック数は平均19.4回でリーグ6位

相手の3P成功率35.8%(リーグ14位は平均レベルだが、効率性が高いとされるコーナー3Pは36.0%(リーグ3位としっかり抑えている。

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このインサイドをヘルプで固めつつアウトサイドシュートをチェックするという欲張りセットの基礎になっているのがリーグトップクラスの機動力(ディフェンス時の移動距離1試合平均8.7マイルでリーグ3位)と手足の長さ。

(サンダーは)どのポジションにも手足が長い選手が揃っていて、ディフェンスの弱点が少ない。ディフェンススキームもすばらしい。

 スティーブ・カーHC

サンダーのロスターを見ると各ポジションに機動力と手足の長さを兼ね備えた選手が揃っていることが分かる、特に昨ドラフトで指名した選手にはその特徴が顕著に表れている。

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その他

ルー・ドート

サンダーディフェンスを語る上で避けて通れないのがルー・ドート。

ペリメーターのボールマンディフェンダーとしてはリーグ最強の選手、今季も幾度となく相手のエースを止めてきた。

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ダグノートHCはドート個人のディフェンスがチーム戦略にも影響すると語る。

(ディフェンスで)難しいことをやろうとしているわけではない、基礎的なルールに従ってディフェンスをしようとしているだけなんだ。起用に関して色々意見を言ってくる人もいるが、ボールマンディフェンダーとしてのドートを軽視することはできない。試合の流れだけでなく、戦略にも影響を与える選手だ。ドートのおかげで相手のエースが攻めてきても我々は通常通りのディフェンスができる。

 マーク・ダグノートHC

サンダーはダブルチーム等の特殊なディフェンスをせずとも、ドートが相手のエースを抑えてくれるのでいつも通りのローテーションでディフェンスができるということになる。

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ミドルシュート

話を冒頭のミドルシュートに戻したい。ここまでを整理するとサンダーは

  • 「ヘルプの意識が高くミドルエリアに人が多いからチェックが厳しくなり相手のミドルシュートは確率が悪くなる」
  • 「そもそも3Pシュートを打たせるから相手はミドルシュートを打つ本数が少なくなる」
  • 「ルー・ドート」

ということが言えそう。

だから、「なぜサンダーの対戦相手はミドルシュートの本数が少なく、確率も低いのか?」という疑問に対しては「"一生懸命ミドルシュートを守ろうとしているから"ではなく、"チームのディフェンススキーム実行することで自ずとミドルシュートを守ることができるから"」というのが自分なりに導き出した答え。

サンダーのディフェンススキームが凝縮されているポゼッション、これだけヘルプの寄りが早い中でミドルシュートを打つのは至難の技?

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またミドルシュート(と3P)について、今季ダグノートHCとシェイ・ギルジャス・アレキザンダーが興味深いコメントを残している。

"コンテステッド(=シュートチェックされた)3P"なら試合中いつでも打つことはできるけど、それはかなり非効率的なシュートになる。"コンテステッド3P"は現代版のミッドレンジシュート(=効率が悪いシュート)だ、どのチームも相手がどこで3Pを打ってくるのかはしっかり分析している。そうなったら3Pだからと言って、いいシュートとは言えない。

 マーク・ダグノートHC

色んなチームがミッドレンジを打たせてくる、相手が打たせてくれるシュートだから上達ようとしてるんだ。

 シェイ・ギルジャス・アレキザンダー

「現代バスケットボールでは3Pは効率がいいシュートと言われていて、ディフェンスも当然3Pを守ってくる。それでも打ち続けることが正しいのか?」

サンダーの答えは"NO”、だから相手にはコンテステッド3Pを打たせてサンダーは(=シェイは)ミドルシュートを打つ。

昨季乱発していたステップバック3Pを封印しているシェイ、今季10~14ft.の距離(フリースローラインより少し手前)から決めたシュート数129本でリーグ1位(成功率55.6%)

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ターンオーバー

もう一つ今季のサンダーで注目したい数値がある、それはターンオーバー(以下、TOV)の差。

[表3]の通りサンダーはTOVが少なく、相手はTOVが多い。

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ディフェンスコンセプトの通り『ヘルプディフェンスでペイントを固める』サンダー、ペイントを攻めてくる選手は誰かというと相手のボールハンドラー(=ディシジョンメイカー)。ハンドラーを潰してボールを離させ、シューターやカッターにボールを持たせ(ディシジョンメイクに長けていない彼らに)ディシジョンメイクを強いる。

例えば、対戦相手はサンダー相手にどう攻めたらいいかを以下の通り答えている。(『ゴール下に近づけさせない』で既述した対戦相手のコメントの続き)

サンダーがどう守ってくるかは分かっていた。相手はとにかくペイントを固めてくるタイプのチームだ、いかなるドライブに対してもすぐにヘルプが寄ってくる。だから、シュートを打つかパスをするかシンプルな判断をしたらよかった。

 ジェボン・カーター

相手がどんなディフェンスをやってくるか早い段階で分かっていた。ピック&ロールをしてゴールに向かうと(隣の選手の)ヘルプがしっかりと寄ってくる、だから隣の味方にパスを捌いてシュートを打つかドライブを選択したらいいんだ。

 シェイク・ミルトン

2人ともサンダーに勝利した後のコメントだから得意気に語っているが、サンダーとしては『判断』『選択』をさせるという狙い通りのディフェンスだったはず。

一方でオフェンスではコート上に4人ないし5人ディシジョンメイカーを揃えているサンダー。

つまり、構図は「ディシジョンメイカーが揃っているサンダー」vs「ディシジョンメイカーを潰される相手」という『ディシジョンメイクのミスマッチ』が成立。このミスマッチがTOV差に繋がっている。

(チームとしてターンオーバーが少ないことについて)そんなに難しいことではないよ、アグレッシブにプレーしながら毎回正しい判断をしようとプレーするのはね。オレたちにはいいディシジョンメイカーが揃ってるから。

 シェイ・ギルジャス・アレキザンダー

https://thunder-quest.com/2023/01/26/2022-23_rs48/
ディフェンスでは高さと引換えに機動力を手にしたサンダー、オフェンスでディシジョンメイカーが増えるという狙いもあるはず。

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弱点とこれから

ここまで読んだ渋谷のギャル100人が「サンダーって中外問わずディフェンスできるってコト?!最強ぢゃん」と驚いているかもしれないが、[表4]の通り基礎スタッツは上の下レベルで当然弱点もある。

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第一にフィジカルと高さを捨てて機動力を重視するサンダーはリバウンドが滅法弱い。

リーグで1番オフェンスリバウンドを取られており(平均12.1本)、セカンドチャンスの失点(平均15.8得点)もリーグ最多。

ダグノートHCも「機動力とリバウンドを両立させることは難しい」という旨の発言をしており、ある程度はリバウンドを諦めざるを得ない状況。

他にも『3Pを打たせる』のでたとえ確率を抑えたとしても3Pを決められる数は多くなる(相手に決められた3P数は平均12.7本でリーグ21位)という弱点もあり、相手のシューターを乗せてしまうリスクを常に抱えることにもなる。

サンダー戦で29得点(3P 5ー7)を記録したキーガン・マレーは試合後「サンダーはドロップで守ってくる、ドロップに対するオフェンスはたくさん練習してきたから楽にプレーできた」とコメント。

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こうした弱点があるサンダー、まずは現有メンバーで今のディフェンススキームを磨くことが第一だが弱点解消の鍵となる選手にチェット・ホルムグレンを挙げたい。今季全休のチェットは来季コートに立ち、サンダーに足らなかったものをもたらしてくれる。

もちろんチェットが全てのリバウンドを取るわけでも、全ての3Pシュートをブロックするわけでもない。チェットがいることで「あと1cm足らずに取れなかったリバウンドが取れるようになる」「ヘルプの寄りが1cm浅くてもローテーションが間に合う、だから1秒速く外のシュートにチェックにいける」という1cm、1秒の積み上げが増えるはず。

その結果、サンダーの目指すディフェンスが完璧に近づくことを期待したい。

ブザービーターで勝つこともあれば、ブザービーターで負けることもある。4点差で勝つこともあれば、4点差で負けることもある。毎試合30点差で負けることなんてない、オレは試合に出てスーパーマンになって30点差を逆転しようとなんてしなくていいんだ。どうやったらこのチームの得点を5点増やせるか、失点を5点減らせるかを考えて、それを積み上げていけばいい。

 チェット・ホルムグレン

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リンク

21-22サンダーオフェンスのスタッツ分析

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