ステフ・カリーのチームがクリス・ポールのチームを追い詰めた、まだカリーがNBA入りする前の2008年の話だ。
2人はピックアップゲームで激突していた。そこでのルールは決められた点数を先に取った方が勝利、そしてシューティングファウルが起きた場合はフリースローはなくオフェンスが続けて攻めるというものだった。(ファウル数は無制限)
忘れないよ、クリスはオレたちがシュートを決めないように7回くらい連続でファウルしてきたんだ。それでこっちがミスしたら、相手がシュートを決めて試合終了だ。
ステフ・カリー
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変則レイアップ
2019-20シーズン、大方の予想を覆しウエスト5位の成績を残したオクラホマシティ・サンダー。
当時中心選手のクリス・ポール、デニス・シュルーダーの2人でお互いに言い合っているジョークがあった。
リーグはここ4,5年で変わった、どのチームも下がって守ってミドルシュートを打たせるようになっている。コーチたちもチームメイトのみんなもオレがミドルシュートを打つように言ってくれる、できる限り得意なポジションで打とうとしてるよ。だから、デニスとかと言ってるジョークがあるんだ。エルボー(フリースローラインの角)に行ったら”レイアップ”って叫ぶっていうね、それがオレたちバージョンのレイアップだから。
クリス・ポール
近年バスケットボールでは効率が重視され、確率が高いゴール下&期待値が高い3Pの2つが重視される傾向にある。その流れを受けてNBAではミドルシュートの本数が年々減少してきた。リーグ全体で2011-12シーズンにはシュート全体の31%がミドルから放たれていたが現在ではその数値は13%だ。
当然、相手ディフェンスも重要視するのはゴール下&3Pのディフェンスとなり、必然的にミドルシュートへの守りは優先度が下がる。しかし、それはミドルシュートを得意とするポールのような選手にとって好都合でしかない。
実際にポールのミドルシュートはリーグ平均の成功率より10%以上高い。その数値はプレーオフになるとさらに上昇し効率が高いとされるゴール下のシュートに迫る数値、そして今季に限ればゴール下のシュートを凌ぐ数値を記録している。
ポール自身はジョークと言っているが、”レイアップ”という表現は言い得て妙なのである。
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ビッグマンいじめ
先の”レイアップ”にはある秘密がある。
それはとにかく相手の弱点、つまり機動力に欠けるビッグマンを攻め続けるということだ。
ポールが今季あげた268得点がセンター相手に取った点数で全体の3割近くを占める、これがいかにずば抜けているのかを示すのに他PGと比較をしたのが表2。例えばステフ・カリーは193得点で11.2%とセンター相手の得点比率は低く、ガード相手のスコアが半数以上を占める。
モラントとは比率で比較すると大差がないように感じるが、内容をブレイクダウンすると見え方が変わる。モラントはFGの半分以上がレイアップによる得点で必然的に(意図せず)ビッグマンにシュートチェックされる機会が増える。対してポールのFGは90%以上がジャンプシュートであり、意図的にビッグマンを引きずり出して得点を重ねていることが分かる。
キャリアハイの平均22得点を挙げた2008-09シーズンからポールのジャンプシュートの比率は年々上昇している。老いていく身体能力でいかに得点するかを考え、行きついた先がビッグマンを相手にスコアすることだった。
2mも身長がないから、いつも自分より大きな選手越しにフェイダウェイでシュートを打ってきた。だから(大きい選手相手のミドルは)自分にとって最高のプレーなんだ。
クリス・ポール
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リップスルー
ポールの代名詞と言って思い浮かぶものはミドルシュートよりもリップスルーかもしれない。
2011年にルールが変わりリップスルーはシューティングファウル扱いにはならなくなった。しかし、ポールはこのリップスルーをフリースローに繋げる天才だ。
2019年12月に書かれたThe Athleticの記事によるとポールは2019-20シーズン開幕23試合中16試合で22回リップスルーをしており、その全てがフリースローもしくはボーナス突入になるファウルに繋がっていた。 つまりポールは闇雲にぶん回してるわけではなく相手のファウル数、試合の流れを読みながらしている。
CPがリップスルーでファウルをよく貰えるのはタイミングが正しいからだ。毎回やってたら吹いてもらえない。それをどう思うかだって?すばらしいよ、だって味方なんだもん。
スティーブン・アダムス
(ポールを相手にするときは)手を挙げておかないといけない、前回対戦したときに2,3回やられたと思う。全員が得意技をもっているが、リップスルーが彼にとってのそれだ。ポールは賢い選手だからマッチアップするときは(ポールを相手にしているということを)分かっておかないといけない。本当にやり手だからボーナスに入ったときにリップスルーをやってくるんだ。
テリー・ストッツ(前ブレイザーズHC)
それが数字に表れているのが表4。シューティングファウル以外でフリースローに繋がったファウル獲得数(=リップスルー数ではないがリップスルー数がまとめられたサイトはなさそう?)でポールはリーグ5位、フリースロー数が202本なので半分以上がシューティングファウル以外によるもの。
フリースローに繋がったファウル数を確認すると、シューティングファウルよりそれ以外のファウルの方が多い選手はポール以外存在しない。
そして、このリップスルーによりポールはさらに止めることができない選手になる。
(ポールを守るときは)相手の進行方向を絞るために腕を伸ばすのではなく体を近づけないといけない。それが守るための唯一の方法だ。
アンファニー・サイモンズ
対戦相手はビッグマンとポールのマッチアップを避けるためにポールの進行方向を限定的にしたいはず。しかし、ポール相手に方向付けをしようと手を伸ばすと今度はフリースローを打たれる、手を伸ばさず体を近づけて守ると今度は抜かれるリスクが高まる。
自身の得意技をルールと絡ませ相手を追い詰めるこの手法は見事と言わざるを得ない。
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2008年、当時大学生だったカリーは7連続ファウルを食らいポールとの対戦に敗れ「ルールを把握しそれを最大限活用する大切さ」を痛感した。
どんな試合でもそれだけ真剣にプレーすべきなんだ、それがNBAの試合でも夏のピックアップゲームだろうとね。勝ちに対する執念を学んだよ。
ステフ・カリー
相手の弱点を攻め続ける&ルールを最大限に活用する、こうした勝利へのこだわりこそが37歳のポールが現在もなおリーグ最高峰のプレイヤーである所以だ。
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